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なぜトヨタは燃料電池車の特許を開放したのか② - OSの重要性

トヨタ水素自動車第2回です。
今回はOSのお話です。

理経済:なぜトヨタは燃料電池車の特許を開放したのか① - 3つの狙い

自動車とOSの組合せは意外と思われるかもしれませんが、自動車は今や電子部品の塊
カーナビなどの電子機器は言うに及ばず、エンジンの制御、ブレーキの制御、ABS、ライト、エアバック制御、ハイブリッド制御等等、山の様な制御・管理が必要です。
得てして回転数や排気量等にばかり目が行きますが、自動車は今や携帯電話以上の電子機器になっています

自動車OS

デザインウェーブマガジン:需要が拡大する自動車制御OSを知る PDF
TOYOTA:カーエレクトロニクスのディペンダビリティ設計と説明責任 PDF

OSを軸とするトヨタのIT投資には並々ならないものがあり、日本のどのメーカーよりも進んでいます(後述)
今回の水素エンジンの実用化に漕ぎ着けたのも、このIT技術による水素の安全管理が一因になっているのでしょう。

ではなぜトヨタはOSをそれほどまでに重要視するのでしょうか?
これも歴史的な流れがあります。
発端は20年以上前の1994年の事。

1980年代は日米貿易摩擦が激しさを増していました。
自動車を破壊するシーンや、プラザ合意は有名ですね。
その流れを引き継ぐ形で、1990年代も相変わらず批判(ジャパンバッシング)にさらされていました。
また、自動車以外にも国産のオープンOS「TRON」も批判にさらされ、風前の灯になっていました。

1994年、トヨタの佐藤浩司氏はTRONプロジェクトに接触。
当時、半導体によるガソリンエンジンの制御によって、効率化を図ろうと考えていました

しかし、当時OSはアメリカ製のものばかり。
PCは米国製OSを使ったが為に利益の多くを持って行かれました。
利害が対立する他人に、自身の心臓部分を預ける事が如何に愚かであるかを、多くの日系企業が痛感していました。

トヨタもその事を理解しており、OSを他国に、しかも争っている国に預ける事は、どうしても避けたかったわけです。

そこで登場したのがTRON。
米国から「不公正」の烙印を押され、びびった日本政府や企業によって死に体となっていたのですが、国産・オープンに目をつけたトヨタが接近し、共に車載OSの開発に邁進する事になります。
トヨタの並々ならないシステム開発への情熱はここから来ているわけです。

NHK:プロジェクトX 挑戦者たち「家電革命 トロンの衝撃」
武田計測先端知財団:坂村 健 PDF

さて、では現在の自動車用OSはどの位の規模になっているのでしょうか?
資料によると、2011年頃には既に1000万行に達しており携帯電話(ガラケー?)の倍になっています

増え続けるプログラム行数

経済産業省:産学連携ソフトウェア工学実践事業(高信頼組込みソフトウェア開発)の概要について PDF

また、この資料によると2015年には1億行に達すると予想しています。
調べてみると、2014年の段階でメルセデス・ベンツのSクラスに搭載されているソフトウェアコード行数は6,500万行にもおよびます(多分一般的な水準の改行)

Mentor Graphics:オートモーティブで採用が進む組込みLinuxとファストブートへの挑戦

1億行は過剰にしても、1,000万行単位で増加している事がわかります。
このうち根幹である制御系部分がどの程度かわかりませんが、1,2千万行は硬いでしょうな。
OSはどんどん複雑化し、規模が拡大しているわけです。

これだけあると当然書きミス、つまりバグが発生しやすくなります。
コンピューターに殆どの処理を頼っている現代人において、たった数文字の書き損じが社会に混乱をもたらし、企業に損失をもたらします

2007年にJRのsuicaでバグが発生した事がありましたが、この時は260万人に影響が出ました。
記録が無いのでうろ覚えなのですが、確か5、600万行に対して1行(20文字程)の書き漏れだったと記憶しています。

ITmediaニュース:260万人の朝の足を直撃 プログラムに潜んだ“魔物”
理経済:ソフトの重要性 - トヨタがまたリコール

如何にきれいでミスの無いOSを作り上げるかは重要ですが非常に難しく、無理なら他に頼るしかありません。
そして他人に頼るという事は、開発等の面で大きな足かせになるわけです。

この様に、自動車という工業製品とはベクトルが違う様な気もしますが、今や自動車分野においても、システムを握る事は非常に重要です。
世の中、ただより高いものはありません

技術部分の特許無償公開と同時にOSも普及させてしまえば、それがデファクトスタンダードとなり、今は利益にならないかもしれませんが、将来における基盤を築く訳です。
だからこそ、政府も特許の買い上げではなく無償公開を迫ったのでしょう。
自動車OSのシェアを見れば、無償であるLinuxの強さは明らかで、水素関連でこれをやれば、他社を寄せ付けないのは明白です。

Os

トヨタ、というか政府の狙いの一つはここにあるのではないでしょうか。

次回に続く…

理経済:なぜトヨタは燃料電池車の特許を開放したのか③ - ハイブリッド技術の拡張

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