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なぜトヨタは燃料電池車の特許を開放したのか③ - ハイブリッド技術の拡張

トヨタ燃料電池特許無償開放シリーズ最終回です。
トヨタの優位性を保つ最後の理由として、ハイブリッド技術が関わっていると言う話です。

理経済:なぜトヨタは燃料電池車の特許を開放したのか① - 3つの狙い
理経済:なぜトヨタは燃料電池車の特許を開放したのか② - OSの重要性

本論に入る前に話を簡略化するために、3つほど言葉を定義します。
特に断らない限り、本文中では用語を以下の意味で使います。

  1. モーター:電気自動車に使われる電気式エンジンの事をモーターと呼びます。
  2. エンジン:ガソリン等を使った内燃式エンジンを総称してエンジンと呼びます。
  3. ハイブリッド技術:磁石を使い、ブレーキ時に発電し充電・活用する技術

ハイブリッドカーの「ハイブリッド」とは、元々雑種と言う意味で、本来エンジンとモーターを両方積んでいる車を指し、ここで定義する様なハイブリッド技術を指す訳ではありません。
この為、厳密に言えば電気自動車のハリブリッドカーは(あっても良いのですが)存在しない事になります。
しかしややこしいので、今回は上記の通りとします。

ではここからが本編です。
トヨタは現在ハイブリッド技術で世界をリードしているわけですが、まずはその仕組みから見てみましょう。

一言でハイブリッドカーと言っても大きく3つの方式がありますが、平たく言うとモーターとエンジンの両方を積み、発電しつつ各動力の強味を活かせる様、速度や状況によって使い分けるよう制御されている技術・車です。

細かい仕組みはホンダのページで、とても見やすく書いてあるので、こちらを見ていただくとスッとお分かりになるでしょう。
また、各々の方式がどの車に採用されているかの資料も付けておきます。

ハイブリッドカーの仕組み ハイブリッドカーの仕組み2

HONDA:Hondaのハイブリッドとは
特許庁:特許検索ガイドブック PDF
TOYOTA:トヨタのハイブリッドシステムの仕組み

エンジンとモーターを使うのは良いとして、問題は電気です。
モーターの強味を活かすにせよ、発電はしないといけません。

以前からガソリン車では、エンジンについているオルタネーターを使い発電していましたが、これだけではむしろ非効率です。
ガソリン→電気→動力にしているわけですから、段階を踏む度にエネルギー効率はむしろ悪化します(熱力学第一法則)
これならガソリンだけで作った方がいいわけです。

これを改善する為にハイブリッド技術として活用されているのが"回生ブレーキ"と言う仕組みです。
これはブレーキの際に、従来熱エネルギーに変えていたものを電気エネルギーに変える手法です。

従来、自動車のブレーキと言えば、ブレーキパッドをタイヤの軸に擦り付けて、摩擦によりタイヤを止めていました。
この時、熱エネルギーが発生します(つまりパッドが熱くなる)

熱エネルギーはそのままだと再利用が難しく、実質的に捨てる事になるわけです。
このエネルギーを再利用する為に、磁石を利用し電気に変換し(フレミング左手の法則)モーターを回します。

全体の軽量化の成果等もありますが、この発電しモーターを回す(制御する)流れがハイブリッド技術の根幹となるわけです。
この一連の流れで、大体2割のエネルギーの効率化が図れるそうです。

油圧ブレーキ、改正ブレーキ協調作動概念図

トヨタ:テクノロジーファイル - ハイブリッド車
日刊工業新聞:”第3の電力”ブレーキ発電-省エネ運転、広がる導入

さて、ここまではハイブリッド技術について書いてきたわけですが、翻って燃料電池自動車について見てみましょう。
まずはその仕組みについてです。

燃料電池車(FCV)の仕組み 燃料電池車(FCV)の仕組み2

ロイター通信:自動車産業の未来
トヨタ:水素と酸素で、発電。そして走り出す。

で書くとこんな感じ。
ちょうど電気分解の逆の反応となります。

水素・酸素反応式

要するに電気自動車です。
ただ、今までは外部電源で充電した電池を使っていたのに対し、燃料電池車では水素と酸素による発電によりモーターを回します
旧来の電気自動車は充電時間の長さが特にネックとなっていましたが、水素による車内での発電がこれを解消したわけです。

この様に技術開発が行われているわけですが、燃料電池の技術とハイブリッド技術を並べてみると、まったく分野が違うものと言う事がわかります。
つまり両立できるのです。

回生ブレーキは元々電車の効率化の為に100年近く前から培われている技術です。
電気自動車との相性は、ガソリン車のそれより遥かに良いです。
また、ハイブリッド技術からの発電で、排出される純水からも(触媒必要でしょうが)水素が作れますから、新たな形のハイブリッド技術も登場するかもしれません。

Business誠:プリウス技術のアナロジーは、電車の「電鉄技術」だ

世間では燃料電池自動車がハイブリッドカーに取って代わり、まるでハイブリッド技術は全く無意味になったと言わんばかりの論調に聞こえます。
厳密に言えば確かにそうなのですが、そこまで厳密な話で無いならば、その論調は誤りかミスリードかのどちらかです。

なお、あまりメディアでの露出は無いのですが、現在でもこれらの技術を活用した燃料電池自動車の効率化について、研究が進んでいます。

交通安全環境研究所:電気駆動系自動車におけるエネルギ回生制御の実態把握とその最適化について PDF
北見工業大学:燃料電池自動車の効率改善

トヨタがハイブリッドカーで培った技術とその優位性は、多少の揺らぎや変化はあるでしょうが、消えてなくなるわけではないのです。
故に、水素技術を公開しても自身の優位性はそれ程損なわれず、将来の勝利を見通せる為、実施に踏み切ったのだと思われます。

現在、トヨタ「MIRAI」の航続距離は約700kmとかなり長くなっています。
効率化によりこれ以上伸ばすメリットは少ないと思いますが、距離を短くして小型化や軽量化にも派生できるので、技術開発が無駄になり難いのも重要です。

本シリーズで3つの狙いについて見てきました。
多くのメディアで言われるように、インフラ自体が普及しなければ水素自動車の未来はありません。
しかし、それだけではを主張すると、貧乏くじを引くだけの人が出てきますので不満の種となりますし、誰だって貧乏くじは嫌なので、継続的な発展が見込めなくなります。

そこでもし、多少の犠牲を払ってでもその犠牲を回収できるだけの優位性があるという自信があるのであれば、普及に努めるのも十分に有りと言えます。
トヨタの自信の源泉はこの辺りにあるのではないでしょうか。

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