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米政府がS&Pを提訴 - 疑問の残る米政府の奇行

先日、米国政府が格付機関最大手のS&Pを提訴しました。
ツイッターや掲示板では「ザマー(笑)」みたいな散見されます。

朝日新聞:米司法省、格付け会社S&P提訴へ 「不当に高く評価」

「提訴されて当然」とか「彼らの事なんて信じる奴はいない!」とか色々騒がれていますが、私はこのニュースが疑問で疑問で仕方ありませんでした。

と言うのも、S&Pをはじめ、信用格付会社は国家の許認可が必要な事業です。
彼らが圧倒的なシェアを誇れるのは参入規制とブランド力のおかげであり、後者だけではあそこまで独占的な市場は作れません。

米国証券取引委員会(SEC)は、規制目的で使用できる格付け会社を認可する制度を1975年に作った。ここで認められた格付け会社は“NRSROsNationally Recognized Statistical Rating Organizations, 全国的に認知された統計格付け機関)”として、公的に活用可能な格付けを提供できることとなった。
>>格付け依存で緩んだ証券化市場の規律

Credit Rating Agencies—NRSROs

これを考えると、今回の構図は「米国政府がお墨付きを与えた機関を米国政府が提訴」という、変な構図になります
お墨付きを与えたのに行政処分とかではなく提訴って、まったくもって不思議です。

また、S&P以外にムーディーズも同じ位甘い格付をしていたのは、業界でも有名です。
S&Pだけ槍玉に上がるのも疑問が残ります。

日本と異なり、米国では事情通のアナリストやエコノミストが多い為か、その点について追及しているようです。
ジャーナリストも活発に動いており、市場についての理解の深さが伺えます。
流石ですね。

彼らの記事を読んだことで、2つ目の疑問については解決しました。

S&Pの代理人を務めるフロイド・エイブラムス弁護士はわれわれの取材に対し、連邦政府による調査はある出来事のあとで本気度が増したようだと答えた。その出来事とは、S&Pによる歴史的な米国債の格下げで、これは2011年に債務上限問題をめぐって米議会が紛糾したことを受けてのものだった。その一方で、米国債の格下げを行わなかったムーディーズへの連邦政府による調査が撤回されたのも同じ時期だったと米マクラッチー紙が報じている。
>>【社説】信用格付け引き下げへの仕返しか―米政府のS&P提訴

Bloomberg:なぜ米国債を格下げしたS&Pだけなのか-司法省による提訴

今回S&Pだけ狙い撃ちしたのは格下げの報復なんですね。
えらく私情が混じっている気もしますが、他の会社は格下げしてなかった事を考えると、確かに辻褄はあっています。
しかし、これが本当の動機だとすれば市場を大きく捻じ曲げる事であり、自由市場経済を大きく歪める事です。

格付けは国債の利回りに影響しますし、国債利回りは住宅ローンなど、その国の貸出金利に強く影響を与えます。
自由を掲げ、かつ巨大な市場規模を持つアメリカでこの様な事が行われているとしたら、LIBORの不正操作に匹敵する程の大事件です。

ではもう一つの疑問である提訴はなぜなんでしょう?
記事にもある通り、提訴するなら監督官庁であるSECがS&Pに対して行うか、米政府が下部組織であるSECに対して行うのが順当です。
飛び越えて行うのはSECを軽視しているか、SECが役に立たないと言っているも同然です。

また、認可業なのですから業務停止や課徴金や業務停止などの行政処分で対処できるはずです。
ちなみに日本でも下記の様な制度となっており、いきなり提訴しなくても済む様な、お仕置きシステムが出来上がっています。

金融庁の場合は、こんな感じ。

金融庁:「行政処分事例集」の更新について

一般企業の場合でもお仕置きができます。

金融商品取引法における罰則

株式公開入門Navi:金融商品取引法の罰則

提訴するならその前に、業務停止や権限の一部剥奪とかが妥当なのではないでしょうか?

それに、裁判で負けてしまうと、格付機関が「サブプライムの格付けは妥当であり、我々の格付けが問題ではなかった」と、堂々と主張できるようになり、政府も止められないという事になりかねません。
勝ったら勝ったで官庁を無視する変な構図の前例を作ってしまいます。

結局、裁判では勝っても負けても碌な事がないのだから、行政処分にしないのがとても不自然に見えるわけです。
米国中央政府も馬鹿ではないのですから、その辺りの事は当然考えているはず。

そこについてのレポートはまだ出ていませんし、政府内の力関係がありそうです。
個人だと解明でき無そうなのでWSJBloombergの方々の今後の調査に期待します。

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