安定志向も考えもの① - 安定職と賃金
最近よく聞く話ですが、学生達の間で安定志向が進行しています。
2010年の就職人気ランキングのトップが公務員だったのは、記憶に新しいです。
東洋経済:就職人気ナンバーワンは「公務員」、メガバンクでもなければ、資生堂でもない!
今シリーズはこの安定志向の理想と現実についてです。
今回は安定と昇給の関係についてです。
今年ももう就活戦線がボチボチながら始まっており、就職人気ランキングの速報も少しずつ出ています。
当然と言えば当然ですが、大企業が並んでいます。
公務員は企業では無いため速報のランキングには載ってきませんが、おそらく今年も上位に食い込んでいるものと思われます。
他にも時世を反映してか、食品や教育等のディフェンシブ銘柄が多くなっているようです。
医薬や電力が少ないのは意外ですが。
そんな世の中なわけですが、私は現在の"安定志向"に少々疑問を感じております。
「そもそも安定とは何ぞや?」と問えば、多くの人は「終身雇用」と答えるでしょう。
しかしこの解答には重要な要素が誤認されていると思われます。
昇給です。
本当に"安定"を望むと言うのなら、給料が下がるタイプの終身雇用があってもいいはずなのですが、あまりそういう話は聞きません。
あるのは非正規雇用くらいです。
一般に、賃金には"下方硬直性"と言うものがあり、給料が下がる事に強い嫌悪感を持つとされています。
しかし大雑把に言って、給与がインフレ率に連動していれば生活は良くも悪くもならないはずですから、インフレ率にあわせて減給するのは理にかなっていますし、少なくとも安定はしています。
日本の場合、かなり長い間インフレ率は横ばいになっています。
ですから昇給なんか無くても全体の賃金を平坦にすれば、若い時は楽に、年を取るほど苦しくなりますが、トータルとしては変わらないはずです。
しかし賃金カーブを見ると、年々平坦化はしているものの、凡そ年3.5%(福利計算)位上がっています。
これは正社員がメインのものでしょうが、データをそのまま信じるのならば正社員は日に日に豊かになっている事になります。
これを維持するためには業績(粗利)が同じくらいのペースで上昇しなければなりません。
人件費だけが増加し、粗利が一定なら営業利益率が下がりますから、株主に怒られます。
ですからどうあっても全体の利益を底上げするしかありません。
そうでなければ別の部分に"歪み"が出ます。
日本の市場はご存知の通り低迷しています。
部分的なヒットは出ているものの、成熟市場ですから年間3.5%なんて成長は望めません。
海外で稼げればいいのですが、そうなるとなぜ日本に留まり続けなければならないのか、わからなくなります。
結局、現時点ではその皺寄せが派遣社員やら就職氷河期やらに行っている訳です。
正社員がより豊かになるために多くの労働者が"奉仕"しているのであれば、健全な労働市場とは言い難いです。
またそういう"うまみ"(要するに既得権益)にあり付けるのならば、学生がそれを目指すのも無理からぬ事です。
ましてそれが"終身"にわたって続くのならば、こんなおいしい話はありません。
しかし派遣に皺を寄せたとしても、根本的な解決にはなりません。
現行の「昇給 + 終身 = 安定雇用」という概念が跋扈している以上、少なくとも身内の人間に対してはこれを継続せねばなりません。
皺を寄せようにも、"のりしろ"が無くなってしまったら其処までです。
いずれこのどちらか、あるいは両方に手を入れざるを得なくなります。
おそらく初めは昇給からでしょう。
一般にローリスクならローリターンと言われますが、正社員もまた、この流れに沿う事になるでしょう。
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